-
◆トリクルダウンへの希望の光はやがて消えゆく
2018.07.25 -
こんにちは、株の学校 マナカブ.com講師の中山です。
現在の日本は景気が良いと言われています。
4月に日銀より公表された展望レポートの基本的見解でも以下のとおりです。
政府、日銀が景気の良さを示す指標でよく使うのが、労働需給の逼迫です。
ことしの5月の国内の完全失業率は2.2%(4月:2.5%)と低く、有効求人倍率においては1.60倍と未曽有の売り手市場の状況です。
特に建設業界や飲食業界では人手不足が深刻な状況です。
最近はスーパーではセルフレジを見かけることも多くなりました。
先日、五反田にもある飲食チェーンの大戸屋にランチに行ったのですが、そこでも導入されており省人化の波はどんどん進んでいることが分かります。
そして企業業績が過去最高益更新というところも少なくない状況で、これらのことから「日本は景気が良い」と言われる所以です。
まずこの「景気」と言うものは4局分割で表されることが多いです。
景気の回復期、好況期、後退期、不況期
景気とは経済の全般的な活動水準や活動状況を指しますが、株をやるうえでは日本の景気がどの程度良いのか、活動水準と方向感を確認することが重要です。
そのためには上図のように景気というものは循環することを理解しておく必要があります。
上図4局についてですが、経済活動が拡張方向にある局面を「回復」、一定水準を上回る状態となれば「好況」、縮小基調にある局面が「後退」、そして一定水準を下回れば「不況」となります。
このように景気は回復→好況→後退→不況というサイクルを持っています。
この中で好況から後退への転換点を「景気の山」、不況から回復への転換点を「景気の谷」と呼びます。
◆日本経済はいまは景気の回復局面
日本経済が景気循環のどの局面にいるかについては、内閣府が景気動向指数をもとに判断を行ってます。
日本経済は現在、戦後15回目の循環局面にあり、12年11月を景気の谷とし、そこから回復局面にあるとされています。
内閣府の分析を見れば景気循環局面を判断できることになるのですが、この局面の判断にはかなりの時間を要します。
12年11月が「景気の谷」と判断されたのは14年5月のことで、実にこの判断に至るまでに1年半かかっていることになります。
このことから、現時点が景気回復局面にあるとしても、上図でいうところの「景気の山」にどの程度近づいているのかといった点を正確に判断することは難しいということです。
そして、この景気を測る指標として使われるのがGDP(国内総生産)です。
株をやっている方ならご存知の方も多いかと思いますが、日本のGDP(実質)は約530兆円です。
うち、個人消費に占める割合は約6割(300兆円強)にあたります。
ちなみに米国の実質GDPは約1950兆円、うち個人消費に占める割合は約7割(1400兆円弱)となり、比率も金額も日本と大きな差があります。
米国では多くの消費を促すイベントがあります。
1月は前年の11月から始まっているサンクスギビングデー(感謝祭り)のホリデーシーズン締めくくりとしてスタートし、お正月を迎えます。
しかし、キリスト教徒が多いためお正月よりもクリスマスが特別であり、その延長で考えられているお正月はあまり特別感はありません。
しかし、日本はお正月が特別で世のお父さんが挙ってテレビにかじりついて観ているものと言えば、、、
箱根駅伝ですよね。
米国でも同じくお正月に盛り上がるスポーツがあります。
それが、アメフトです。
しかもその盛り上がりの規模は日本の比になりません。
こちらは、ミシガン大学が所有するスタジアムです。収容人数はなんと11万人!
黄色く見えているものがすべてサポーターの人たちです。
強豪校にとって、アメフトはビッグビジネスとなっており、プロではなく、大学チームの監督の年俸が数億円という学校もあるくらいです。
http://number.bunshun.jp/articles/-/825030
話しが横道に逸れました。
米国のイベントの話しに戻りますが、お正月を迎えて、
4月にはキリストの復活祭とされるイースター(卵の帽子をかぶり街中を練り歩く)があり、
5月~8月にはドライブシーズン、
10月には日本でもお馴染みとなったハロウィン、
そして11月のサンクスギビングデー(感謝祭)のスタート
その翌日のブラックフライデー(日本でも一部の百貨店では耳にするようになりましたね)、
そして最近また新たに出来上がったサイバーマンデー(ネットの商戦日)、
最後はクリスマス
と、日本に比べてかなり「消費を促す」イベントが多いことが分かります。
よって、米国経済は個人消費が支えていると言っても過言ではありません。
またこの何かに託けたイベント乱立の波はいずれ日本にも企業のプロパガンダを経由して訪れることになるとみています。
いつの間にか習慣化したハロウィンのように、4月になると日本でも卵型にデザインを施した帽子を被って練り歩くようなイベントが出来上がっているんじゃないかと個人的にはみています。
日本経済は冒頭でもお伝えしたように回復局面が続いているようです。
しかしながら、景気回復の実感がないとの意見もよく耳にします。
サラリーマンのお父さんが、新橋などでインタビューを受けている姿をテレビで観られたことがある方も多いと思います。
インタビュアー:「アベノミクスと言われて久しいですが、実感ありますか?」
お父さん:「全然ないよー、給料上がらないし、、、」
と愚痴をこぼしているあのやり取りです。
では、なぜ景気回復の実感が湧かないのか?
一言で言えば、「富の再分配(トリクルダウン)がきちんとなされていないから、、、、」
これに尽きます。
アベノミクスでは金融政策、財政政策、成長戦略の「三本の矢」を掲げて2012年暮れにスタートしたわけですが、ここでのKGIは安倍さんが国会でもよく言っている「デフレからの脱却」です。
金融政策においては日銀とタッグを組んで実施してきたのは異次元の金融緩和策です。
具体的には量的質的金融緩和というもので、日銀が大量の国債を市場から購入して通貨量を増やす「金融緩和」によって金利を引き下げるとともに、為替を円安方向に誘導し、株価を引き上げることで、企業収益を引き上げることに貢献してきました。
これによりアベノミクス相場が醸成されました。
この金融緩和策により、企業の収益が上向けば雇用者の賃金が上昇し、人々の消費性向が高まり、インフレが起き、景気回復につながる、、、、これを期待、目的としたものでした。
図で表せば、上図の通り右側の景気が悪い状況(デフレスパイラル)から左側の景気が良い状況に日本経済を持っていきたいと立ち上がったのがこのアベノミクスです。
しかし、先にも述べたように左側のようなサイクルにはなっていないから新橋のお父さんたちは愚痴を溢しているわけです。
確かに日銀による金融緩和策で大量に国債を購入したこと(現在も継続中)により長期債の金利は下がり、民主党時代の1ドル=80円割れのときから考えれば、随分と円安が進んだことで企業収益を押し上げるなど大きな効果がみられました。
けれども、企業だけが儲かり、賃上げには至っていません。
毎年春になるとベア(春闘)の戦いが始まりますが、政府が標榜する賃金上昇3%を下回る結果となっているのが現状です。
足元でも勤労者の実収入は今年に入り減少傾向にあり、そうなれば当然の如く消費に回ることはありません。
実質賃金指数を見てもこれは如実に表れています。
アベノミクスが始まった2012年(平成24年)以降、労働者の実質賃金は右肩下がりを続けているのです。
企業だけが儲かり、色々と御託を並べて賃金は上げない。
これが今の日本の現状です。
春闘でいくら労働者がベースアップを求めても、政府が「労賃を上げなければ追加徴税」など法的な縛りを作らない限り、難しいでしょう。
◆このトリクルダウンへの希望の光は、、、やがて消えゆく
先ほどの図をおさらいします。
会社が儲かる→設備投資が増える→数多の会社の雇用者の賃金が増える→消費が増える→会社が儲かる・・・(繰り返し)
でも、会社は儲かっているわけですが、給料は上がっていないわけです。
逆説的に考えれば、労働者の賃金が上がらないのならば会社も儲からないはずです。
そこに暗躍するのが訪日外国人観光客です。
観光庁の発表によれば、2016年の訪日外国人観光客による経済波及効果は26.4兆円に上ります。
日本のGDPが530兆円とお伝えしましたが、その約5%もの影響があります。
今、日本は外国人観光客数が増えていることはご周知のとおりだと思います。
先日JNTOから発表された6月の訪日外国人客数は270万人(前年同月:234.6万人)でした。
調べてもらえれば分かりますが、訪日外国人客数は右肩上がりで増えています。
これが日本の消費を支えてくれているから、わざわざ日本人の給与所得水準を引き上げなくても会社は儲けることが出来ているのです。
そのため、ある意味水物のあぶく銭と企業も捉えているフシがあるのかもしれません。
いつぞや、この日本の観光バブルが泡沫と消えていく、それを恐れているところもあって労賃を上げないと考えている企業もあるはずです。
しかし今後、この波は外国人の旅行者に限らなくなってくる時代が訪れます。
先月、15日に政府は経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太の方針)を公表しましたが、そこでは将来の日本の人口減少を懸念して、外国人労働者を増やすことを決定しています。
これまで政府では移民に対して否定的でしたが、日本では有効求人倍率が1倍を超える状況が続いており、企業では深刻化する人手不足のせいで、倒産する企業まで出て来ています。
日本では現在、約130万人の外国人が働いていますが、今回の方針では、人手の確保が難しい業種を対象として新たな在留資格を創設し、農業、介護、建設、宿泊、造船の5業種を中心に受け入れを増やす予定とされています。
この5分野で2025年ごろまでに50万人超の受け入れを見込んでいます。
実現すれば日本で働く外国人労働者が、単純計算で現行の130万人から約4割増えることとなります。
そうなれば、当然ながら企業サイドは「働き方改革、ストレスチェック」を武器に文句の多い日本人労働者よりも賃金も安くて真面目に働いてくれる外国人労働者を雇用していく、「産業の空洞化」ならぬ、「雇用の空洞化現象」が、今まさに起ころうとしていることを意味します。
欧州政治に知悉している方ならご存知かと思いますが、これによって移民問題で職を奪われたと国民は政府に対して不満をぶつけて混乱をしています。
「純移民率」という言葉をご存知でしょうか。
これは、住民1千人当たりの純移民率(入ってきた移民数から出て行った移民数を引いたもの)。入ってきた人数の方が多ければプラス(緑色で表示)、逆であればマイナス(茶色)となる分布図です。
ドイツ、そして欧州圏ではありませんがトルコあたりが多いですね。
ドイツのメルケル首相は移民受け入れ派なので、先日の連立政権の際にこれを盾に揺すられることとなりました。https://www.bbc.com/japanese/44492705
これは対岸の火事ではなく、これから日本でも起ころうとしている問題です。
外国人労働者が増えれば、賃金上昇圧力を吸収し、皆さんのお給料は自ずと上がりにくくなります。
さらに1億総活躍社会ですか?これによって女性の社会進出、働くお年寄りが増えることで、年金の受給年齢の高齢化も進みます。
デフレ脱却として始まったアベノミクスですが、これらの要因から今やデフレからの脱却は程遠く賃金が上がらないから物価の上昇は見込めません。
さらに、今回の骨太の方針で低賃の外国人労働者を増やせばさらに物価上昇は遠のくことになるでしょう。
しかし、企業には賃金上昇3%を求めてくるのです。
国民への体裁を整えるために。
もうね、やっていることが矛盾しています。
でも日本を捨てて海外移住くらいの腹積もりをしなければ、こんな日本の中で生き抜くしかありません。
企業は競合相手に勝つために中長期的な目線に立って戦略を考えます。
そのため設備投資・内部留保 > 労働者の昇給
となります。
考え方としては間違っていません。それが延いては雇用者を守ることになるからです。
企業は業績が悪化したとしても簡単に社員をクビにすることはできません。
ただ吐き出した従業員への給与は何も生みませんが、業務効率化のために行った設備投資は利益を生んでくれます。
一方で雇用者は短期的な目線に立って物事を考えます。
だから給料が上がらないと嘆き、企業と雇用者の間に齟齬が生まれます。
今は企業収益が好調ですが、景気の山を迎え後退期に入ったとしても、その薄利はこれからも従業員ではなく株主へと分配されていくのです。
利益が上がった時は企業と株主へ還元、そして従業員は我慢しろ
利益が減った時もその薄利は企業と株主で分配され、従業員の給料は減らされる、コストダウンのため福利厚生が削がれる
これが今の日本の現状です。
自分で力を付けて戦う術を持つしかありません。
でなければ、大げさな話ではなく、さらに貧富の差は拡大することになっていきます。
そしてこれが人からロボットと省人化が進んでいく時代へと突入していきます。
今でも「将来ロボットに奪われる仕事はこれだ!」などというヘッドラインがメディアでも踊ることがありますが、そうなった場合、所得格差はさらに拡大することになります。
しかしこれはいずれ痛みを伴う構造改革へと変わって来ます。
それが行き着く先までいけば色んな意味で「無」になります。
長くなりましたのでこれについてはまた別の機会に。気が向いたら。
ためになったと思ったらクリックお願いします。